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バッちゃんは耳が遠い


過日、壁を叩いてガス警報機が鳴ったことを知らせ、助けを求めたバッちゃんが来た。

 最近は脚が痛くて、アパート前の坂道すら下りられず、駐車場を行き来していると言った。
折りたたみ椅子を勧めると『悪いね、あんたはどうするだね』と気遣いながら、よっこいしょと言って腰を下ろした。
バッちゃんの身の上話が始まり、覚悟を決めて腰を据えた。

 昭和9年生まれの84歳だそうな。
昭和30年代に離婚したのだそうな。二人の娘と一人の息子を女手一つで育てる苦闘、そして、当時の女が仕事をする環境の悪さを聞かしてもらった。
旦那と離婚することになった経緯も聞いた。浮気とか博打、酒じゃないと力説したのは、未だに愛情が消えたわけじゃなさそうだった。
 息子が大学へ行くと言い出し、応援できないことの辛さを噛み締めながら、苦学して卒業するのを見守り、彼は東京で働きだし、嫁を迎えることになったそうだ。しかし嫁の実家は愛知県で、一人っ子の娘を取られることで反対にあったのだそうだ。
耳の遠いバッちゃんのために、声で相づちを打つ代わりに、再三大きく頷いた。

 バッちゃんの話のあちこちには創価学会を薦める場面があるから、うっかり返事に頷くとマズいことになる。
座談会への参加を勧め、大きく立派な浜松本部があるから娘さんに送ってもらえと言う。
ここまで来ると、釘を刺しておかなけりゃ〜と思った。
 大声で叫んだ「バッちゃんね、僕は無神論者なんですよ〜」

『何だって?』 

「だから〜バッちゃんね、僕は無神論者なんですよ

 聞こえたのか理解してくれたのか不明だが、暫くは、おかしな天気の話になって、帰って行った。1時間が経っていた。

by kattyan62 | 2011-11-01 17:14